2011年5月10日火曜日

飛燕




飛燕は日本の戦闘機の中では珍しい液冷エンジンを積んだ戦闘機である。
ドボアチンから技術習得をした川崎のお家芸ともいえる液冷エンジンの良さはなんと言っても正面面積の小さいことだ。当然、面積が小さければ空気抵抗は小さく、前方視界にも優れる。飛燕という愛称も機首に行くに従って細く絞られたこの独特のスタイルが、くちばしをもつ鳥の姿を彷彿させることによるものだろう。一方、空冷の星型エンジンを積む隼などは、まったく鳥らしくはなく、名前と機体がマッチしない。ネーミングとしてはこの飛燕は秀逸といえるだろう。
このユニークな戦闘機は、その丈夫で大きなアスペクト比の主翼とのマッチングもあって優れた性能を示したが、問題はドイツのダイムラーベンツからライセンスしたDB601のエンジンの量産にあった。
結局、クランクシャフトの生産が思うに任せず、エンジンを取り付けることが出来ない機体が工場に多数並ぶことになり、やむなく液冷用の首の狭い機体に空冷星型エンジンを取る付けるという離れ業をやって誕生したのが五式戦闘機である。
普通、当初の設計から逸脱したスペックのエンジンをつけたら本来の性能を引き出せないものだが、前面面積こそ大きくなったものの、冷却循環系が不要で簡素になった分、軽量になり性能は向上し、開発した技術者の間からも、最初からこの方が良かったかも知れないという発言が聞かれたという。
格好は良かったが、慣れない液冷エンジンで悩むよりは、空冷で数をそろえたほうが戦力にはなったかも知れないということだろうか。
五式戦は機首を上下から見るとまるでオタマジャクシだ。設計者、土井さんは、事実を見据えた上でかなり強引なことを平然とやってのける人であった。 
 

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