2011年6月10日金曜日

ビクターの犬

 

あの頃、街の楽器店に行くと必ずと言ってよいほど、音楽に耳を傾ける犬のポップドールが置かれていたものだった。
昭和の頃、商店街では今のように着ぐるみが動いているのは見た記憶がないけれど、街角にはあちこちにこうしたポップドールが置かれていたような気がする。
翻って平成の世においても、たまに薬局でケロちゃんなどは見かけるものの、当時の隆盛は見られず、ポップドールの存在が営業上不可欠なのはKFCなどの一部のフランチャイズ店のみになったように見受けられる。
店頭ポップドール自体を懐かしいと感じる中で、とりわけこの犬を見ると懐かしく思えるのは、ビクターステレオの文字が示すとおり、今では、存在そのものがなくなってしまったレコード文化のキャラクターでもあったからだろう。
おそらくエジソンの発明した蓄音機以来のアナログ音楽プレーヤーで培われた伝統の重みと、その後のCDやデジタルオーディオプレーヤーの発達で失っていったものとの対比をこのビクター犬の姿に投影して見るからではないだろうか。
しかしながら、経緯を調べてみるとこのポップドールの対象は実在していた犬で、ニッパーというフォックス・テリア犬であることがわかった。さらに、これがビクターの商標になるまでの歴史は、それだけで長い文章になることも分った。
しかも、このニッパーが聞いていたのは音楽ではなく、亡き飼い主の声であった。なかなか忠犬ハチ公を思い出させる、こころ温まるストーリーである。
ず~っと音楽に耳を傾ける犬だとばかり思っていたので懐かしさと新しい発見をさせてくれた忠犬ニッパーであった。
 

 

0 件のコメント: